私たちの想い世界最細の注射針

“痛みの少ない注射針”開発の原動力は
糖尿病のある子どもたちの実情に触れた技術者たちの
「なんとかしたい」という想いでした。

注射の痛みを軽減することで、
糖尿病のある方にもっと質の高い時間(とき)を届けられる。

注射は怖くて痛いもの。子どもはもちろん、大人も針が好きな人はいません。1型糖尿病のある方は、毎日インスリン注射を打たなければなりません。そこでテルモは、「世界で一番痛みを感じにくい」注射針の開発を目指しました。その目的のもとで生まれたのが、ペン型注入器用ディスポーザブル注射針「ナノパスシリーズ」。2012年、先端外径わずか0.18mm、世界最細ダブルテーパーペンニードルの「ナノパス34」をリリース。2019年には針の長さを4mmから3mmへと1mm短くした「ナノパスJr.」の販売を開始しました。

ナノパス開発者のひとりである西川尚穂さんは、20年以上もこの製品に携わっています。初めて開発に参加したのは、2005年に発売した「ナノパス33」でした。西川さんはもともと血糖測定器の開発に携わっていたため、糖尿病という疾患や糖尿病のある方に関してある程度の知識はありましたが、注射針の開発中に、糖尿病のある子どもたちやその保護者のニーズを知ることができました。
西川:「糖尿病のある方にとって、インスリン注射は欠かせません。ですから、糖尿病のあるお子さんだけでなく、保護者の方からも話を聞く必要があることに気づきました。というのも、多くの場合、小さなお子さんには保護者が子どもに針を刺すため、罪悪感を感じてしまいます。そのつらい気持ちを少しでも和らげたい。それがこの製品開発の動機でした」
糖尿病のある方のために「何かしたい」という想い。それが、“痛みを軽減した”世界で一番細い針を実現させた原動力になりました。

  • 現在。当社調べ。

薬剤注入時の抵抗を小さくする「ダブルテーパー構造」

ナノパスの注射針を刺したときに痛みを感じにくいのには、二つの理由があります。ひとつは針の直径が細いこと。もうひとつは、針の先端形状が非対称(アシンメトリー)であることです。
西川:「痛みを感じるのは、注射針の刺入部分が痛点に触れるからです。手の甲には1cm2あたり100~200の痛点があります。針の直径が痛点の間隔よりも小さければ、痛みの受容体に当たりにくくなるため、痛みを感じる可能性も低くなるはずです」

皮膚 / 痛点 / 径の小さい針 / 径の大きい針
従来の針 / 外径・内径ストレート / ダブルテーパー針 / 外径テーパー・内径テーパー

しかし、この形状での量産は、非常に困難でした。世の中にまだ存在せず、テルモの社内にも実現するノウハウがありません。そこでチームは外部のパートナー企業を探すにあたり、100社以上と連絡を取りましたが、技術的なハードルが高く、なかなか色よい返事は得られません。このとき、チームの心は折れる寸前でした。当時は社内でも、発想は良いと認められながらも、製品化は難しいと考えていた人が少なくありませんでした。
そんな中でも、西川さんたち開発チームは、「糖尿病のある方の負担を減らしたい」という開発の原点に立ち返り、ついに、この難題にともに挑戦してくれるパートナーにたどり着きました。それは筋金入りの職人技で知られる、日本の小さな工場でした。彼らの熟練の技術力と熱い心意気が、ダブルテーパー構造のパイプの量産化を実現しました。ナノパス開発が大きく前進した瞬間でした。

皮膚への挿入がスムーズな「アシンメトリーエッジ」

ナノパスのもうひとつの画期的なイノベーション、アシンメトリーエッジ(非対称刃面構造)。これをダブルテーパー構造のパイプの先端に応用することで、痛みを軽減しようと考えました。
「ナノパス34」から開発チームに加わった堀江まどかさんは、アシンメトリーエッジについて次のように説明します。
堀江:「注射のときに感じるチクッとした痛みは、とがったものが皮膚に当たったときに起こります。一方で、ナイフの刃を皮膚に押し当てても、圧力は直線的に分散されるので痛みはありません。アシンメトリーエッジは、この考え方に基づいてデザインされているため、針の先端にほんの少し「線」を入れています。針は皮膚を刺すのではなく、カミソリのような鋭い刃先で小さく切る。このデザインは、どのナノパスシリーズにも採用されています」

「突き刺す」のではなく「小さく切る」

このアシンメトリーエッジの発見は、偶然のたまものでした。
西川:「どんな形状がもっとも痛みを軽減できるか、実際にいろいろと試作品をつくって試していたところ、ある日、チクッとしない針に出会えたんです。顕微鏡で拡大すると、左右が非対称であることがわかりました。それまでは、針は左右対称であることが常識でしたから、私たちも対称につくろうとしていました。開発初期は手作業でサンプルをつくっていたので、誤って形状不良が発生してしまった。それが、アシンメトリーエッジという革新的な構造の発見につながりました」

なんとかしたいという想いから生まれたアイデアを、
テルモと日本の“ものづくり力”が実現

ついに針の量産が軌道に乗り、先端形状も決まりました。しかし、もうひとつ大きな壁が。それを実際の注射針に落とし込むための製造技術です。テルモの甲府工場では毎月数億本もの針を製造していますが、これほどまでに細い針を製造したことがなかったのです。
極細パイプの高速微細溶接や、熱による変形の修正、針基への針の効率的な取り付けなど、製造上取り組むべき課題は数多くありました。西川さんと同様に2005年発売の「ナノパス33」から開発に携わってきた川本秀雄さんは、当時をこう振り返ります。

川本:「ナノパス33でも細すぎるためペーパー針が曲がったり、折れたりしました。その度に形状を見直して再構築する。先端部のシミュレーションも何度も行いました」

しかし、西川さんたち開発者はこのような問題をひとつずつ解決し、量産化に成功。ナノパスの量産に必要な技術は、自動車や精密機器など、異業種の製造設備をつくるメーカーの協力を得て実現しました。糖尿病のある方に寄り添うソリューションの実現にかける強い想いが、ときに業界を超えた技術力の結集につながったのでした。
さらにナノパスシリーズは、最終組み立て工程の後、画像検査機で全数検査しています。不良率は限りなくゼロに近く、日本最高レベルの品質を維持しながら、効率的な量産を達成しています。

「痛みを軽減する」針から「怖くない」針へ。

2012年に先端外径0.18mmの「ナノパス34G」を開発した西川さんたちのチームは、次に「怖くない」注射針の開発に着手しました。問題は、どうすれば注射に対する恐怖心を軽減できるかということ。たどり着いた答えは、それまで4mmだった針の長さを3mmに短くすることでした。川本さんは、糖尿病のある方の「少しでも痛みや怖さが小さいものがほしい」という要望に触れ、開発へのモチベーションに少し変化があったと言います。

川本:「短くしたのはわずか1mmですが、あの針で小さなお子様などの痛みや恐怖を緩和できるのなら。糖尿病のある方の声に応えるような、もっと細い針を目指さなくては、と強く思いました。」
堀江:「見た目は気持ちに大きな影響を与えるようです。34ゲージの開発からナノパスに関わってきましたが、わずか0.02mmの差、1ゲージ細くすることにどれだけの違いがあるのか疑問に思っていました。しかし、実際に見てみると印象がまったく異なり、医師からも糖尿病のある方からも大きな反響がありました」

糖尿病のある方の苦痛を少しでも減らせるよう、社内はもちろん、外部のパートナーをも巻き込んだ開発者たちの情熱が、痛みや怖さを軽減する、この細く短い針を実現したのです。

その技術と高品質な製品で、
世界中の糖尿病のある方々に寄り添いたい。

ナノパスの開発を通じて、開発者たちの糖尿病のある方々に対する想いは、さらに強くなっています。

西川:「糖尿病関連製品の開発に携わった経験は、医療従事者のことをより近くで考えるきっかけになりました。彼らについて知れば知るほど、彼らにとってより便利で効率的な製品を開発したいと思うようになりました。」
堀江:「糖尿病関連製品は、糖尿病のある方自身も使う医療機器です。私たちは機能的で効率的であるだけでなく、日常的に持ち歩くのに快適な製品を作りたいと考えています」
川本:「自己注射は糖尿病のある方の生活の一部です。糖尿病のある方がSNSで発信される日常を勉強のために拝見することも増えました。テルモに対する嬉しい意見もさらなる期待の意見もありますが、その意見の中にこそ次に目指すべき製品のヒントがあると思っています。」

西川さんたち開発者は、パートナー企業と協力して、日本だけでなく世界中で糖尿病のある方の生活のストレスを軽減したいと考えています。

川本:「今後もナノパスを通して、注射に対する抵抗や恐怖心の軽減に広く貢献していきたいです。また、この針が糖尿病のある方だけでなく、ほかの医療分野にまで届けれられる日がくるといいですね。」
堀江:「テルモは製品の品​​質を非常に重視しています。ナノパスは製造時の不良率が非常に低く、高品質な製品を提供できる。潜在的なパートナー企業にとっても、ブランド価値をさらに高めるのに有用な機会になると思います」
西川:「今後もナノパスの知名度を世界中で高めていきながら、製薬会社や医療機器メーカーと協力して、多くの糖尿病のある方の痛みを軽減し、より安心して日常生活を送れるよう、質の高い製品とサービスを世界中に提供していきたいと考えています」

注射針は人体にアクセスするための重要なデバイスであり、ナノパスの技術はさまざまな薬剤注射に応用できます。西川さんをはじめとするチームメンバーは、これからもさらなる改良や改善を重ね、アイデアを新たなイノベーションとして形にすることを目指していきます。

一般的名称:医薬品・ワクチン注入用針 販売名:ナノパスニードルII 医療機器承認番号:22400BZX00071000

Profile

西川 尚穂

1997年より血糖測定器の開発に携わる。2001年に「ナノパス33」の開発チームに異動し、コンセプト企画から量産開始まで一貫して携わる。それ以来、ナノパスシリーズのさらなる開発を主導。

堀江 まどか

2007年入社。血糖値や尿成分を測定する試験紙の開発を経て、ナノパス34の開発チームに参加。学生時代から糖尿病性腎症の治療に利用できるマーカー分子の探索方法を研究。

川本 秀雄

2005年入社。「ナノパス33」の開発チームにて商品改良・生産技術の業務に携わる。その経験を活かし、「ナノパス34」では改良コンセプトの商品化から量産開始までを主導。

技術・ソリューション

ダブルテーパー構造/非対称刃面構造

痛点との接触を最小限に抑えるため、
世界最細を実現したダブルテーパー構造の34G注射針

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