私たちの想い3D針
注射による心理的負担は、
患者さんにも医療従事者にも重くのしかかる。
その事実を知ったとき、エンジニアたちの想いは、
両者の負担軽減へと向かいました。
「老若男女を問わず、狙った血管を逃さない」ために。
一度での穿刺成功を目指した、ゼロからの技術開発。
血管注射の穿刺は、医療現場ではごく基本的な行為でありながら、狙った部位に正確に針を刺す高い技術が求められる行為です。しかし、患者さんにとっての注射は、恐怖や痛みをともなうことが少なくありません。
そのため、患者さんの身体的特徴や医療従事者の経験値などに左右される穿刺のリトライは、患者さんだけでなく、医療従事者にとっても心理的負担が大きく、医療課題のひとつでもありました。そこでテルモは、一度の穿刺で目的を達成できる針の開発に乗り出したのです。
長年、輸液製品の開発に携わり、「3D針」では針加工の設備開発を担当していた細川大輔さんは、その課題を耳にした時の想いをこう語ります。
細川:「若い医療従事者と話すなかで、彼らが注射に対してとても緊張していることを知りました。それは患者さんに負担をかけたくない、という想いから。だからこそ、一度の穿刺で血管を確保できるような針先を開発して、医療従事者と患者さん、両者の負担を軽減したいと思いました」
さらに入社以来、カニューレ製品に携わってきた長澤雅彦さんは開発の施策を取りまとめる立場となった当初をこう振り返ります。
長澤:「注射針の技術に深い知見と経験を持つテルモなら、きっと力になれる。『老若男女を問わず、狙った血管は逃さない』。そのためには針先に、世界トップレベルの切れ味が必要になる。そう確信しました」
「短い刃面長」と「鋭い刃先角度」をあわせ持つ、
独自の刃先形状。
3D針の穿刺確度の高さの秘訣は、テルモにしかない「短い刃面長」と「鋭い刃先角度」との組み合わせにあります。
長澤:「針先の切れ味が悪いと、血管の上で針先が滑り、一度の穿刺で対応できなくなるため、針先の角度も形状も、とても重要なんです」
細川:「針先の切れ味だけではだめなんです。刃面全体がスムーズに血管内に穿刺できるよう、刃面全体の形状設定にずいぶん時間を費やしました」
エンジニアたちは穿刺時に皮膚の切れ味を向上、また刺通抵抗を低減するために針の先端角度を従来モデルよりも鋭角にしました。さらに、穿刺後に針先が血管の中心を外れた際、血管壁を突き抜けにくくするため短い刃面長としました。
長澤:「この切れ味によって、一度での穿刺が叶えば、患者さんや医療従事者の負担を減らすだけでなく、注射針の使用数も減るので、医療経済にも環境にもやさしい、というメリットがあります」
両立の難しい2つの技術を共存させるための
かつてない加工技術への挑戦。
短い刃面長」と「鋭い刃先角度」を細い注射針上に両立させるのは、容易なことではありませんでした。理想の性能を叶えるため、材料から刃形状の選定、研削方法に至るまで、ゼロから考えては試作するという日々がおよそ8年も続きました。
細川:「刃先の研削方法ひとつとっても、従来のやり方では追いつかない。ですから、すべてをゼロベースで発想する開発でした」
忠鉢:「刃先の刺通抵抗にばかり気を取られてしまい、逆に針全体の最大抵抗が大きくなってしまったこともありました。理論上の刺通抵抗値は理想的でも、皮膚に近い素材に穿刺すると上手くいかなかったりしたんです」
生産技術の改良に尽力していたエンジニア、忠鉢貴史さんも語ります。こうして完成にいたるまで3D-CADや試作品の数は膨大に増えていきました。
長澤:「しかも、この針形状で量産するには、既存の加工法では限界があったんです」
忠鉢:「特別な加工を可能にするために、大きく発想を転換した設備の開発も同時に行いました」
二人が語る通り、3つの平面によって形成される一般的な注射針の加工法では、3D針は製造できなかったのです。そこで、あらたな加工法を検討した結果、現在の製造設備に行きつきました。設備だけではなく注射針を研削する砥石も、例外ではありません。無数に存在する砥石のなかから、品質安定性と製造コストとのバランスを考慮し、砥石メーカーと協力しながら最適なものについにたどり着いたのです。
初めての試みは、品質検査や大量生産における均質性にも及びました。かつてない形状の刃先を量産するには、高精度な製造管理が要求されます。刃を付ける際のパイプ治具のホールド力の強度や、どう検査していくかなど、課題は枚挙にいとまがありませんでした。
3D針は、開発から検査、量産まで、すべてをゼロから進めたテルモにとっても画期的な注射針となったのです。
現場の声から見えてきた3D針の可能性
困難な開発・量産を乗り超えた3D針。その性能について、好意的なご意見をいただくことが励みになると語ってくれたのは忠鉢さんです。
忠鉢:「学会でデモンストレーションを行った際、『もう血管に入っちゃってるの?』と驚かれた先生もいらっしゃいました」
血管確保に2回以上の穿刺が必要だった患者さんが一度で血管確保できるように。高齢者の細い血管により確実に穿刺できるように。
そして、動脈硬化や石灰化のある動脈にもスムーズに穿刺でき、エコー下穿刺においても針がしっかりと視認できるように。
テルモのエンジニアたちの想いがこもった製品となっています。
さまざまな枠を超えて、より多くの人々の役に立つ未来を。
3D針という名称は、社内公募で決定しました。そこには、自由度の高い注射針であるという自負が込められています。そんな3D針の今後の展望について、開発メンバーはそれぞれの想いを語ってくれました。
長澤:「『血管に注射するなら3D針』と言われるまでに広まってほしいです。そして、多くの患者さんと医療従事者の役に立つ存在となってほしいですね」
忠鉢:「テルモの製品のみならず、企業の枠を超えて、さまざまな製品に採用してほしいですね。テルモが進出していない分野の医療従事者や患者さんにも、共創を通じて、このメリットを広く届けられるのではないかと思います」
細川:「世の中に『テルモの針は頼りになる』と認められ、医療だけでなく、研究や医薬品など、他領域でも活用されていくと嬉しいですね」
心身の負担軽減にもこだわり続ける、テルモの注射針の技術。今後も革新的な技術で、患者さんだけでなく、医療の現場や研究、医薬品など、あらゆる分野に貢献していきます。
一般的名称:プラスチックカニューレ型滅菌済み穿刺針 販売名:サーフローZERO 医療機器認証番号:303AABZX00055000
テルモ独自開発の3D針
― 穿刺成功率の向上を目指した独自技術で、2つの形状を両立させた注射針 ―
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Profile
細川 大輔
1995年入社。輸液製品の量産設備の開発に携わった後、2016年から3D針の開発チームに参画。
カヌラの製造方法について一から学びました。
長澤 雅彦
1981年入社。カヌラ関係の生産設備の開発、生産技術に携わり、2015年から新形状カヌラ開発、試作も担当しました。カヌラ一筋43年。
忠鉢 貴史
2004年入社。留置針製品やカヌラ関係の量産設備の開発に携わり、2015年から3D針の量産立上げに参画。
一般カヌラの経験も活かして3D針に貢献します。